今回は、池澤夏樹のスティルライフという小説のことをちょっと書きます。
※ちょくちょくネタバレ含みます。
スティルライフって steal lifeなのか still lifeなのか。
調べてみれば答えは出るんだろうけど、そんな気分ではないのであえて…ただ、結論から言うと
still lifeでした。
最初に特に印象的だった主人公のセリフを引用します。
寿命が千年ないのに、ぼくは何から手を付けていいかわからなかった。何をすればいいのだろう。仮に、とりあえず、今のところは、しばらくの間は、アルバイトでもして様子を見る。そういうことだ。何十年先に何をやっているかを今すぐ決めろというのはずいぶん理不尽な要求だと思って、ぼくは何も決めなかった。社会は早く決めた奴の方を優先するらしかったが、それはしかたのないことだ。僕は、とりあえず迷っている方を選んだ。
このセリフに惹かれたあなたは、
きっとこの小説が気に入ると思いますよ。
物語に登場する佐々井という人物。
彼は、じつはある重大な秘密を抱えた男でした。
ただ、この小説では取り立ててそれをクローズアップするわけでもなく、断罪するわけでもなく。
むしろ、一人の青年の過去の1断片みたいなどこか柔らかな触れるか触れないかのようなフェザータッチな描かれ方をしているからおもしろい。
(ふ~ん、ま、そんなこともあるよね。)
一瞬、この世界の3人に1人くらいは佐々井と同じ境遇にあるのか…?
と錯覚を覚えるほどあつかいがナチュラル…ホントはだいぶアンナチュラルなボーイのはずなのにね!
残るのは、さっぱりとした読後感だけ
多分、この小説には、教訓めいたものはあまり含まれていない(私が読み落としただけかもしれないけど)。
その意味で、最近読んだ『君たちはどう生きるか』とはまさに対極にあって、
でも、だからこそ小説らしい小説という気がすごくした。
どこにでも居そうなふたりの青年があるとき出会い、
束の間じかんを共にしただけ。

ま、切り口次第ではサスペンスにもなりそうな設定を含んではいたんだけどさ。
しかし、この小説では、あえてそれをメインテーマにはしていない。
と書いて、さて本題は何だったんだろう…と考えると、主題らしい主題が見つからないことに気がつくから困る。

一言で言えないからこそ、美しいんだってば。
とかいう誤魔化しでは、どうなるものでもなく…。
というわけで困ったときのアマゾンレビュー
こういうとき、
本来なら自分の頭で考えて、
自分なりの感想をひねり出さなければならないのだろう。
もし、私が書評家を目指すならそれは避けては通れない道…
のはずだけど、今のところ、その予定はないので(笑
惰弱(だじゃく)にもアマゾンのユーティリティあるれるレビューにすがってみるのも悪くない。

というわけで、しばし、黙読…。
なるほど。
独特の浮遊感、どこかの漫画で聴いたようなセリフが飛び交っている。
美しい会話を楽しむ小説…か。
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
結局、この小説のハイライトは、
物語の冒頭、とあるバーで繰り広げられたチェレンコフ光をめぐる2人の会話だったのかも…なんてことを気づかされる。
そんなアマゾンレビューはやっぱり秀逸だ。
よく、面白い芸人はクレイジーな体験をしているから面白いのではなくて、
何気ない日常を独特の切り口と表現で切りとれるからこそ面白いのだ!ということを、あまり面白くない芸人がどや顔で語ってたりする。
面白くない芸人が言っているから説得力は微妙だけど、真実だと思う。
それはいい小説の定義としてもあてはまる気がしていて、
良い小説は、設定や登場人物が特殊だから面白いのではなく、何気ない日常を美しい言葉の力で彩るからこそ面白いのだ。

・・・なんてね。
おまけ:やっぱり気になって調べてみたタイトルの意味
例えば数年後、あるいは死の床に伏せっているとき
「結局、スティルライフってどういう意味だったんだろ…」
なんて疑問を残したくはない。
ということで、ちょっとの手間で1つ後悔の芽…じゃなくタネを摘んでおけるなら・・・と調べみることにした。

ちょっと、おおげさだったか・・・。
スティルライフ=静止画
冒頭でお伝えした通り、
スティルライフは、英語で「still life」と書き、静止画を意味する言葉だそう。
1982年にリリースされたローリングストーンズのアルバムのタイトルでもあり、
この小説が世に出たのが1991年だから、そうなると作者がなんらかの影響を受けてそうな気配はする。

静止画…なんでタイトルが静止画??
この物語自身が、長い時の流れからすれば一瞬を切り取った静止画のようなもの
と捉えることもできるだろうし、
もしくは、ストーンズのアルバムをはじめ、スティルライフを冠した作品のもつ世界観から着想を得て書かれたものだからスティルライフ…。
まあ、考えても答えが出るこっちゃねえわな。
とりあえず、スティルライフが静止画を意味するワードであるということと、チェレンコフ光という教養だけは身に付いたということで(笑。
あと、読後に感じる浮遊感…私もちょっとだけ宙に浮けた気がした1冊でした。
それでは、また。