もし、今このタイミングでスラムダンクの続編が描かれるなら…
連載終了から、20年以上の時を経た今、なぜかふとそんな考えが浮かんだ。
リハビリを終えて帰ってきた桜木花道
まず、
一番気になるというか、悩みどころなのが、桜木花道のその後をどう描くか。である。
バスケット経験者揃いの作中にあって、
バスケ経験3か月足らずの素人というポジションは、異色だった。
しかし、初心者である彼が主役を務めることで、読者も感情移入しやすくなり、
それまでマイナースポーツとされていたバスケットボール人気の火付け役になったことは言うまでもない。
高校入学から、最初のインターハイを終えるまで。
このいわば、バスケットボール選手として駆け出しの時期だからこそ、桜木は下手くそな素人のままでよかった。
トラベリングもするし、毎試合ファールアウトするし。
そうやってチームの足を引っ張りながら、要所で光る活躍を見せることで、十分主役として面目躍如できた。
だが、桜木花道がこの物語の主役である限り、素人のままで終わるわけにはいかない。
これまでと同じか、それ以上のスピードで成長していかなければならない。
では、果たして彼はどのようなプレイヤーに進化していくのが正解なのか。
RUKAWAみてーに…はありえない
作中、桜木は、監督の安西に、ライバルである流川に高校生の間に追いつきたかったら、そのプレイを徹底的に盗み、当人の3倍練習しなければならない、とのアドバイスを受ける。
そして”のちの話ではあるが”と前置きがされた上で、
”その後、桜木は急速な成長を遂げることになる”とある。
ということは、
桜木もまた、やがては流川のようなオールラウンダーへと成長を遂げるのだろうか?
う~ん、なんだかつまらない展開だ。
というか、桜木がいとも簡単にアウトサイドシュートを沈めるシーンは、なぜかあまり見たい気がしない。
これは全く個人的な意見ではあるけれど、桜木はどこか不器用なくらいがちょうどいい。
不器用だけれど、時に誰もが度肝を抜かれるようなビッグプレーをかます。
桜木が(天才的な)初心者だったからこそ、スラムダンクという漫画は、マニアックなただのスポーツ漫画から、国民的な青春漫画に昇華したのだ。
そして、やはりどこまで行っても桜木と流川の対比は鮮明であってほしい。
闘志を内に秘めたクールな流川と、パワフルでエネルギッシュ、そして圧倒的な明るさでチームを鼓舞する桜木。
漫画に同じポジションのキャラクターは2人要らないという事から言っても、桜木には、流川とは違った独自の進化、そして存在感が求められる、と思う。
まあ、レブロンのように成長を遂げた桜木…というのもそれはそれで面白そうではあるけれど。和製ということで言うと、筑波大時代の馬場雄大選手のような感じが一番イメージに近いのかな。
それでも、日本人であるということ
スラムダンク連載当時に比べて、高校バスケ界も様変わりした。
そりゃそうだ、当時まだ高校生だった田臥勇太が御年37歳、今やBリーグ最年長選手なのだから。
そして、今や全国の強豪校では2メートルを超える外国人留学生を擁するチームが珍しくなくなった。
となると、
スラムダンクに続編があるとしたら、
桜木のいる湘北も勝ち進めば、当然、そのようなチームとの対戦を余儀なくされるはずだ。
まあ、現状を無視して、かつてのファンたちのために森重や河田弟らと桜木とのタイマンを描くのも、それはそれでいいと思うんだけど、
人気作品の宿命として、最新のトレンドを無視するわけにはいかないだろう。
となると、一つ問題が生じる。
それは、桜木、身体能力無双できなくなる問題だ。
これまで、対日本人としてなら、
フンフンディフェンスしかり、
引っかかっても2回飛ぶしかり、
フリースローラインからのダンクしかり、
あのダッシュは並みじゃできねえ…しかり、
身体能力全一のような描かれ方をしてきた桜木花道だが、黒人のプレイヤー相手ではそうはいかない。
宇宙人を圧倒したブザービーターのヒデヨシのような描かれ方は?
それは漫画としては面白いけれど、架空の人物たちによるドキュメンタリー作品を自認する井上漫画に限っては、
「だって、漫画だから(笑)」は許されない。
となると、必然的に、桜木が初めて身体能力で圧倒される、という場面だって描かれなければならなくなるはずだ。
そして、その挫折から、桜木自身は、そして読者はどうやって立ち直るのか。
これまで、桜木という存在は、圧倒的な期待可能性、つまり圧倒的なまでのポテンシャルによって、どちらかというと、読者から青田買いされてきた感がある。
「今はまだ下手くそだけど、いつか日本一のバスケットボールプレイヤーになる男だから。」
おそらく、読者は心のどこかで桜木のそんな将来像を描きながら、彼の成長を見守ってきたのではないだろうか。
これが、赤木であれば、河田に圧倒されても、そこからしぶとく立ち上がるというストーリーも描きやすかった。
キャプテンとして、「俺は負けても、湘北は負けんぞ!」と言い切ることができた。
しかし、桜木は、主人公だ。
だから、負けることは許されない。
なんというか、
技術で負けても、存在感で負けてはだめなのだ。
とはいえ、日本人である以上、世界を相手にバスケットボールで個人として負けないことは限りなく難しい。
桜木も、そして読者も、やがて、その現実と対峙することを余儀なくされるだろう。
あ、あくまで妄想の話ね(笑
イメージはラトレル・スプリーウェル
ここでちょっと余談。
桜木のその後をイメージした時、私の中で真っ先に浮かんだのが、ニューヨークニックスなどでSGとして活躍した元NBAプレイヤーラトレル・スプリーウェルだった。
当時でこそ、189センチという身長は、高校生としては大柄な部類として扱われていたが、現在では、決してそうではない。
安西先生の予言通り、桜木が将来、日本を背負って立つ男になるとして、
2メートル以下の身長では、国内でもSGかもしくはSFが適当だろう。
豪快なダンクが持ち味で、ジャンプシュートも上手いスプリーなら、成長した桜木のイメージとしてもそんなに違和感がない。どこか悪童チックでワイルドな雰囲気もダブる面がある。
そして、何よりの共通点が、高校からバスケを始めたというところ。
桜木の成長もスゴイが、
高校から始めてNBAのスター選手にまでなってしまったスプリーも負けていない。
余談の余談だけど、女優の深津絵里さんもかつて(今も?)スプリーウェルのファンだったそうですよ。それ聞いてなんか好きになってしまった(笑
幸い、
桜木はまだ1年という設定なので、
河田兄のように、ここからグ~ンと7フィート近い身長まで成長するという描き方もできなくはないが、それだとさすがにご都合主義な感じがしてしまうので、
まあ、高校3年時には、195センチくらいにはなるかな、という線でいくと、結論スプリーでしょう(笑)花道、ドレッドヘアー似合いそうだし。
和製ロッドマンじゃだめ?
もちろん、その線は考えた。
当初、派手な髪形や、リバウンド力から、彼のモデルはブルズのロッドマンじゃないかと言われていたが…
じゃあ、桜木も圧倒的なリバウンド力だけで、主人公としての地位に鎮座し続けるというのは…さすがに無理と思ウヨ(笑
確かに、ロッドマンは黄金期のブルズの主力だったし、チームに欠かせない戦力だったけど、そこにはジョーダンがいて、ピッペンがいて。
言い方は悪いが、彼は決してチームの中心ではなかったし、その必要もなかった。
あくまで、当時のブルズはジョーダンのチームだったのだ。
となると、リバウンド力だけでは、下手すると、流川のサポート役に成り下がってしまいかねない。
圧倒的な実力差があったからこそ、流川への僻み嫉妬心も、かわいいものだったが、
これが、時間を経るにしたがって、徐々に醜いルサンチマンのようなものに変容してしまったら、たまらない。
だから、少なくともあと1つ、できれば2つ強力な武器が欲しい。
華麗なドリブルで相手をかわす…というのはあまり桜木っぽくないので、
やはり身体能力を生かしたスティールからの豪快なダンクや、ブロック、ディフェンス力などで存在感を示してくれた方が”らしい”気がする。
となると、メッタ・ワールドピース辺りも候補になるかな…って、さすがにイメージが(笑
まあ、描き方として楽なのは、
今より身長が10~15センチくらい伸びて超強力なインサイドプレイヤーに成長しインサイドで得点を量産。
そして、シュートレンジも徐々に広がっていき…ダンカンのようなバンクショットを覚え…そして走れるビッグマンとして速攻の先頭を走り、毎試合5ブロック・10リバウンド…とディフェンス面でも活躍。
あれ?でも、それってただのバスケ漫画じゃ…。
やはり続編を描くのは難しい
そもそも、当時と今とでは、バスケットボールのスタイルがあまりにも変わりすぎた。
スプラッシュブラザーズ…とか当時は想像さえできなかったでしょう?
スラムダンクという作品は、どうしたって、MJやコービーに代表されるスラッシャータイプのSGや、ユーイングやシャックがインサイドを支配した頃のNBAをモデルにしていたし(そりゃそうだ、だって当時はそれが世界最高峰のバスケットだったんだから)、どうしたって、今や時代錯誤を感じる点は否めない。
じゃあ、ここから湘北にも新たにカリーのような転校生が入ってきて…なんてことをやったら、もはやただのギャグマンガだ。
そもそも、カリーのような一人でシュートまでもっていくタイプの選手が中心だと、多くの読者が共感し感情移入できるようなドラマチックな展開は描きにくいだろうし。
シューターのために身体を張ってスクリーンをかけ…それを見逃さずベストなタイミングでパスを入れ、それに応えるようにして体力の限界を超えシュートを決め続ける…という対山王戦で見せた美しい信頼の物語は、もし三井がカリーなら生まれていなかった。
「今のNBAは技術的に洗練されているけど、どこか魅力に欠けるなあ…」
スラムダンクの続編をイメージするついでに、ふと現在のNBAを漫画の題材として眺めてみると、その理由が何となく見えてくる気がする。
さらに、日本人でも、八村塁選手や、田中力選手など、
世界を相手に活躍し、将来はNBAをめざせるような選手たちが登場してきている現状を踏まえると、スラムダンクのその後をそのまま描いただけでは、どうやったって”今さら感”は拭えない。
やはりスラムダンクは、あのタイミング、あの終わり方が最高だし、こうやって、素人なりにちょっと妄想してみただけでも、あそこからどう話を展開してみたところで、所詮、蛇足でしかないことがよく理解できるというものだ(笑
もし、仮に井上先生が、バスケットボールを題材にした漫画を再び描くとしても、それはまったく違った登場人物による新たなストーリーになるだろう。
そして、もし仮に、このタイミングでスラムダンクがスタートしていたなら、
桜木は、八村塁選手のようなNBA入りの可能性を秘めたハーフ(ダブル)として描かれていたのではないだろうか(現にブザービーターではヒデヨシはゴル星人だったというオチだったし)。
というか、リアリティ―を追求すると、むしろ、そうせざるを得なくなる。
ただ、先生自身「若いころのように、勝つことが単純に正義だとは思えなくなってきた。」というようなことを言われていたので、友情・努力・勝利みたいな話は、きっとこの先も描かれることはないんだろな…。
妄想は楽しいけど、いざ書くとなると疲れますね…(;^ω^)
というわけで、今回はこの辺で。
それでは、また。