【万引き家族】薄皮一つ剥いた先の地獄絵図とそこに宿る愛

映画レビュー

まったく胸糞の悪い映画だ。

 

カタルシスも大団円もありはしないし、

伏線なんて1つも回収してないんじゃないかってくらい断線しまくりだし。

 

というか細かい設定については何の説明もないという今時あり得ないくらい硬派で親切な設計。

 

そのせいで樹木希林おばあちゃんは、誰とどういう繋がりで家族になったんだとか、

松岡茉優はどうしてこの家族のメンバーなんだ、あんな恵まれた家庭があるのに…という疑問が疑問のまま残ってしまった。

 

 

原作があれば補完したいところだが、どうやらそんなものはないらしい。

 

ただし、松岡茉優は美しかった。

リリーさんもよかったし、何より安藤サクラの演技が狂暴すぎだ。

もちろん、樹木希林さんは言うに及ばず。

 

一言でこの映画を観た感想を表すなら、

よくもまあ、世の不条理を真芯でとらえてくれたな!ということになる。

 

誰しも、心のどこかで抱える不安感やむなしさ、

それは普段見てみぬふりをして何とか平穏を保って暮らしているところの、薄皮一つ剥けば、禍々しくも顔をのぞかせるおぞましい地獄絵図。

 

1つ路地を曲がれば、誰しも目の当たりにするかもしれない痛みがこの映画には

そこかしこにちりばめられている。

 

しかも、それが制度だとか社会正義だとかでは救いとれない、そんな目の粗い網では余裕で零れ落ちてしまうところから日々滴り落ちる類の不幸と悲しみだから、もうどうしようもない。

 

そのどうしようもない感じをこれでもか!というくらいのアラカルトで大盤振る舞いするもんだからもう、ホント何度途中で見るのをやめたくなったことか。

 

伏線は回収しないくせに、少年の万引きが見つかったのをきっかけに、

束の間の家族ごっこが破綻するフラグだけは分かりやすく提示してくれていて逆に不親切だろ!とツッコミをいれたくなる。

 

ただし、柄本のおじさんは優しすぎだ。

 

本当の幸福とは何か。

不幸とは何か。

家族とは何か。

 

生んだらそれで親なのか?

犯罪者はすべてにおいて否定されるべきか?

 

結局、ラストのあのシーン。

幼い子供が誤ってベランダから転落してしまった不幸な事故を連想させるあの描写がこの作品のテーマを端的に表しているのだと受け取った。

 

たとえ、まったく見当違いであったとしても、

そう受け取ってしまったのだから仕方がない。

 

というわけで、まったくもって不親切だしエンタメ要素なんてゼロなわけだが、

ただまあ、ここまで押し付けがましくなく説教くさくも無く、

家族愛を感じさせるフィクションもまた稀だ。

 

いや、家族愛なんてクソくらえ!と蓋をしたのに隙間からとびきりのがあふれ出てしまったという方がたぶん正しい。

 

腐りかけて、いつ崩れてもおかしくない日常を形はどうあれ懸命に生きる家族。

たとえ血は繋がってなくとも。始まりが間違いだったとしても。

 

無論、この映画がバロンドール…ではなくパルムドールを受賞するにふさわしい映画というだけの評価を受けたことは間違いないわけで、名作か怪作かはともかく、いろいろと考えさせられてしまった。

 

なぜか無性に腹が立ったのも、

見終えた直後からムキになってあらさがしを始めてしまったのも、

 

結局、それだけ自分の奥の方に抱えた不安や痛み、

あるいはトラウマを刺激されたからなのだろうと推測する。

 

エンタメを求めた先で思いがけず、

シリアスな苦行の1つも強いられれば、人間やはり反発したくなるものだ。

 

というわけで、

映画の形式に倣い、悪びれることなく映画自体のストーリー説明も何もすっ飛ばして、

だいぶ食らって揺さぶられた2時間余りの過程で感じた痛みだけで構成された作文をしたためてみたら、案の定ひどい仕上がりになってしまった。ただしちょっとカタルシス。

 

ホント、申し訳ない。

 

 

それでは、また。