この間、勉強熱心なカワセ君からこんな質問を受けた。
「ねえ、デフレとディスインフレの違いがよくわからなんだけど。」
なるほど、僕も正直よく分からない。
だけど、ここは知ったかぶりをして適当に切り抜けようと
「どっちも、不景気で、お金の価値が下がって、その脚気、じゃなくてその結果、モノが高くなることなんじゃないの?」
とか言ってみる。
「え?それってデフレだけじゃないの?だったら、なんでわざわざそれと別にディスインフレって言葉があるのよ?」
いつものことながら、カワセ君は引き下がらない。まるでどこかのトットちゃんだ。
廊下に立たせておくわけにもいかないので
またあとでね、急用を思い出したから、と部屋へと戻り、僕の部屋の押し入れに住んでいる、未来から来たモノ知りロボットに聞いてみることにした。
「ねえねえ、ドザエモン。さっきカワセ君に、デフレとディスインフレの違いについて聞かれたんだけど、よく分かんないから教えてよ。」
『え、オレ、いつからそんな名前になったのよ?ドザエモン…完全に水死体じゃねえか。死人に口なしってな、じゃ、オヤスミ~。」
そういうと、ロボットは布団をかぶって押し入れの戸を閉めようとするので慌ててやり直し。
「ゴメンゴメン、クニエモン。でも、本当に違いについて教えてほしいんだ、簡単にでいいから。」
『だから…、まあいいや、なあ、お前ちょっとボール上に投げてみろよ。』
「ボール?なんで?」
『いいから、早くしねえと寝ちまうぞ。」
「わかったわかった。上に投げればいいんでしょ。こう?」
そういうと僕はボールを天井めがけて投げ上げた。
『ハイ、ここがインフレ、ここがディスインフレ、そんでここがデフレ!』
すると目にもとまらぬ早業でクニエモンはポッケから取り出した指し棒でビシビシっと指し示す。
『まず、このボールが描く放物線を、物価の動きだとする。その間、物自体の価値は変わらないとして…あ、どら焼きはずっと美味いってことね。インフレってのは、どら焼きの値段だけがぐんぐん上がっていく状態のことを言ってんだ。まあ、どういう理由で上がるのかはおいおい自分で調べてみることだな。』
「へえ、そりゃ分かりやすい。それでそれで?」
『投げ上げたボールは永遠に上がり続けることはない、重力があるからな、だからいずれは頂点に達する、そしてそれ以上は上がらなくなる。物価もそれと同じで、必ずいつか天井を迎えるんだ、そこがディスインフレーション、つまりディスインフレって言われる状態のことだな。』
「つまり、もうそれ以上、物価が上昇しなくなった状態ってこと?」
『まあ、そういうこった。』
「じゃあ、最後にデフレは?なんかこの流れだと大体わかってきた気もするけど…。」
『じゃあ、逆にオレに説明してみてくれよ。聞いててやっから。』
そういうと煎餅をバリバリ食べ始めたクニエモン。
あとで、食べかす掃除しなきゃ。めんどくさ。しかも、それボクのおやつだし…。
『まあ、いいじゃん、それより、早く聞かせてみろよ。ホレホレ。』
「ハァ…うん、この流れで行くと、ボールはそのうち、今度はゆっくり落ち始めるよね。デフレってのはつまり物価が上昇から下降に転じて、ぐんぐん下がっていく局面のことじゃないかな。」
『・・・』
「違った…?」
『正解。』
「やった!これでカワセ君に答えることができるぞ~」
そのあと、クニエモンは完全にいびきをかいて寝てしまったので、僕は起こさないように、部屋を後にしてカワセ君のところに向かうのだった。
つづく。