気がつくと、私は戦火の只中にいた。
民間人としてか、一兵士としてかは定かではないが、それを逃れるための旅客機(あるいは軍用機)の最後尾に乗り込み、ようやく安堵した。
ただ、何となく予感はあった。
それが近づいている静かな予感。
そして、
我々を載せた飛行機が中継地点(あるいは終着点)の空港に降りた際、それは起きた。
まばゆい閃光に覆われる機内。
そこに音はなく、私はただ、光が飛行機の前方から私に向かってくるのをスローモーションの世界で見ていた。
原因は定かではない。
着陸した際に燃料が漏れていたのか、あるいは敵国のテロリストの仕業か…。
ただ、私にとってそんなことは問題ではなく、不思議とそこには、痛みも絶望も無かった。
死とはこういうものなのか…。
今まで抱いていた恐怖も不安も、それは穏やかに拭い去ってくれた。
そして、次に目覚めたとき、私がおり立ったのは、見渡す限りの水平線が広がる世界。
そこは永遠の浅瀬の上に日が沈んだばかりの美しい夕暮れの青空が広がる場所だった。
そこに無数の白い服を着た人々が佇んでいる。
ここが、天国なのだろうか。
それは、今まで見たことも無いような穏やかなで平和な風景だった。
ただ、私がそれを抱いたのは一瞬のこと。
次の瞬間、私は枕の上で目覚めていた。
昨日から続いていたどんよりとした歯痛はおさまっていた。
「生きなさい、あなたはまだ生きなければならない。」
その声を合図とするかのように再び目を覚ます歯の痛み。
なるほど。
歯痛の不快さなど、命を失うことと比べれば取るに足らない…ということか。
月並みだがそんな結論もぼんやりと頭をよぎる。
まあ、死後の世界も大分いい感じではあったけど…。
昨日から、なぜか治療を進めている歯とは違う部位が痛むことに違和感を覚えていたが、神経がバカになっているのかもしれない。
ただ、これが続くようなら、次の予約は大分先だけど、痛み止めの薬が切れ次第、一度、歯医者にいこう。