Drアマリ。
他者の記憶を脳内細胞から映像と音声で復元することができるスペシャリストの名前だ。
彼女を訪ねて、我々はグッドネイバーにあるメモリーデンという場所へと向かった。
中へ入ると、いきなり妖艶なマダムによるお出迎え。
先端技術を扱う施設の受付嬢としてはやや違和感を感じるが、なるほど。
ここは、医療施設というよりは、人々を束の間の夢の世界へと誘う享楽施設という色合いが強いのかもしれない。そう考えると、セクシーなマダムが出迎えるのも頷(うなず)ける。
店内で落ち合ったバレンタインは、なにやら親しげに彼女と話している。どうやら二人は旧知の仲のようだ。
彼女の説明では、ドクターと記憶再現のための装置は、店の地下だという。
さっそく階段を下りていくと、そこにはDr.アマリと共に、卵型をした流線型の椅子のようなものが並べられていた。
どうやら、この装置が記憶を再現するためのものらしい。
「初めまして、ドクター。いきなりで悪いんですけど、ケロッグという男の記憶を再現してくれませんか?」
無礼は承知で、急ぎ要件を伝えると、彼女の表情がにわかに曇る。
それは、私の態度が原因というわけではなく、どうやら他に問題があるようだった。
「ごめんなさい…この装置はね、基本的に、生きている人間の記憶しか再現できないの…」
そんな…いや、ここで諦めてはいられない。
そこを何とか試してみてほしいとなおも食い下がる。
「奴の脳細胞は持っているんです…これで試してみてくれませんか?」
そういって、手持ちのケロッグの脳の一部を彼女に見せると、
「待って…これって海馬よね…これなら…もしかしたら」
明らかに彼女の態度が変わった。
どうやら望みはあるようだ。
幸いにも、主人公が持ち帰った細胞は、記憶をつかさどる海馬を含んだもので、おまけに状態もよかったらしい。
ただし、本来ならば、生きた人間を被験者として片方に座らせ…という工程が必要なようで、その役割をどうするかという問題が浮上したが…
「それなら私がやろう。」
とバレンタインが引き受けてくれた。
「死者の細胞を移植するとなると、リスクは低くないし、副作用も考えられる…それでもやってくれるの?」
ドクターがそう尋ねると
「この件には、幼い人質の安否がかかっているんだ。リスクを冒すだけの価値はあるさ。」
となんとも男前な回答。ありがとう、ミスター。
早速、ドクターの手によって、バレンタインの体内に、ケロッグの脳細胞の一部が埋めこまれた。
そして、彼に副作用がないのを確認して、私も夢見装置の中へとピットイン。
ほどなくして、目の前に、VRで再現されたケロッグの脳内世界が現れた。
「よかった。まだ無傷の記憶が残っていたみたい。」
そんなドクターの吉報が、装置内へと心地よく響く。
彼女の指示に従って、神経回路のような通路を進んでいくと、最初に現れたのは、幼少期のケロッグと母親との記憶だった。
飲んだくれの父から母を守れなかったこと。
そんな父親への怒りと憎しみ。
決して幸福ではなかったが、それでも優しかった母への情愛が伝わってくる。
それから、若い日のケロッグと恋人との諍(いさか)いの記憶。
「どうしてもその仕事をやらなければならないの?」
ささやかでも安全な暮らしを望む彼女と、まるで死に急ぐかのように危険な仕事を請け負おうとするケロッグ。
(俺と出会わなければ、こいつには別の人生があったんだろう、少なくとも、間違いないく長生きできただろうな…)
そう振り返るケロッグ自身の言葉から推察するに、彼女は、奴の仕事がらみで、不幸にも若くして命を落としたとも考えられる。
そして、インスティチュートとケロッグとの出会い。
どうやら、奴はインスティチュートと呼ばれる科学者集団によって、人造人間に変えられ、組織が求める血なまぐさい任務や誘拐を一手に引き受けていたようだ。
そして、奴が主人公の夫を殺し、ショーンを連れ去る場面の記憶。
やはり犯人はケロッグ自身で間違いなかった。
逃げるようにして、その記憶の断片から距離を置く主人公。
「つらい記憶を呼び覚ましてしまって…ごめんなさい。」
聞こえてくる声のトーンから、Dr.アマリが心を痛めているのが伝わってくる。
気にしないで…ドクターは何も悪くないのだから。
そして、その後に現れた記憶には、なんと息子ショーンの姿が…!
どんなマジックを使ったかは知らないが、
記憶の中では、既に10歳ほどに成長したショーンとケロッグが一つの部屋の中にいた。
「ショーンと過ごしていると、俺にも、もしかしたらこんな人生もあったのかもなって…そんな風に思わないでもねえが、やっぱりそれも一時的なことだ。もう後戻りはできねえんだからな。」
床に座り、夢中で絵を描くショーンと、その様子をまるで父親のように見つめるケロッグ。
奴自身も、決して望んで汚れ仕事していたわけではなかったのだろうが、何か抜けられない事情があったのだろうか。
憎き仇も人の子…最初から人殺しだったわけではない。
そう理解したところで、到底奴を許せるわけもなかったが、何か一方的に責めることはできないような、どこかアンビバレントな心境に陥る。
その後、二人がいる部屋へコーサ―と名乗る人物が入ってきた。
記憶上のケロッグの説明によると、彼はインスティチュートが作り上げた人造人間で、人間を上回る知性と身体能力を兼ね備えているのだという。
そのコーサ―の話によると、バージルと名乗る科学者がインスティチュートから脱走し、輝きの海と呼ばれる区域に潜伏しているらしかった。
輝きの海とは、極めて高濃度の放射能に汚染された地域で、人間が生身で立ち入れば即死不可避の危険な場所とのこと。
どうやって立ち入るかは今後対策を練る必要があるとして、
新たな手掛かりを得るためには、輝きの海のどこかに隠れているバージルという人物を探し出す必要がありそうだ。
記憶の最期で、ショーンはコーサ―と共に転移装置を使ってどこかへと消えてしまった。
今後、ショーンの行方を追ってインスティチュートの闇に足を踏み入れれば、いずれ彼と対峙することになるのかもしれない。