ダイヤモンドシティにある一軒のバーである「ダグアウト・イン」。
あるとき依頼をこなした後に一杯やるべく店内に入ると、
そこにはいつも耳馴染みのダイヤモンドシティラジオが流れていた。
「俺は、このラジオが嫌いでねえ…」
カウンターに座ると、聞いてもいないのにいきなりそんなことを言うバーテンダー。
それから、2、3言葉を交わした後、彼はバディムと名乗った。
「そうだ…ちょっと頼みてえんだが」
打ち解けてこちらに気を許したのか、彼はおもむろにある頼み事について話し始めた。
「うちの客の一人にトラビスってのがいるんだが、こいつが今チンピラに絡まれててな、どうだい、今度コイツがヤツらと喧嘩する時、勝てるようにうまく手を貸してやってくれねえか?」
トラビス…?
トラビスってもしかしてあのダイヤモンドシティラジオパーソナリティーのトラビス君のこと!?
より詳しく話を聞くと、どうやら明日の6時過ぎにトラビスは店に現れるだろうとのことである。
翌日。
予定の6時を過ぎた所でさっそく店に立ち寄ってみると、案の定、トラビスと思しき人物が入口から見える店の中央でチンピラに絡まれ困った様子で突っ立っていた。
さっそく駆け寄って声をかけてみると、
「やあ、今ちょっとマズい事態になっていてね…」
案の定、聞こえてきたのはあの自信なさげなナードナイーブボイス。
まさか、こんな形で彼に会うことになろうとは…。
自信なさげなトラビスとそれをカウンター越しに見守るバディム。
ただ、どうも事態は思ったよりも緊迫しているようである。
バディムに話を聞くと、どうも今晩の喧嘩は避けられそうにないとのこと。
トラビスに喧嘩する意思はあるのかと尋ねると、どうも乗り気ではなく
「暴力的なのは、ちょっと…」
と及び腰。
ただ、バディム曰く、これをトラビスが男を上げるいい機会にしたいということらしいので
こちらも、何とか励まして自信を持たせようと試みる。
「いざとなったら、私も手を貸すから。」
その言葉に勇気づけられたのか、
「やれるだけ、やってみるよ。」とトラビス君。
そして、いざファイトがおっぱじまると、意外や意外、覚醒したトラビス君は、ならず者連中相手に見事に立ち回り、私の手をほとんど借りずに、相手を追い払ってしまった。
「やったな!トラビス!」
まるで自分のことのように喜ぶバディム。
なんだ、ただ面白がってただけじゃなくて、結構いいやつじゃないか。
トラビス自身も、
「僕がやったんだ…なんだか信じられないよ。」
そう言い残して、祝杯を挙げる間もなく、夢うつつのようにして店を後にしてしまった。
何か報酬を貰えるかなと期待したわけではないが、一応その後、バディムに話しかけると、クロスカウンタ気味に次の依頼をお見舞いされる。
「実はな、トラビスの野郎、ウチで働いてるスカーレットのことが気になってるみてえなんだ。どうだい?スカーレットのところへ行って、トラビスと会うようにうまく仕向けてくれねえかな?」
喧嘩の手助けの次は恋のキューピットですかい。
いやはや、こんな荒廃した世界にも、人情というか、絵に描いたようなお節介じじいがいたものかと、ちょっと嬉しくもなり、珍しく血を見ない依頼事続きにほっこりもしつつ、足取り軽くスカーレットの元へと向かう。
トラビスの名を出すと、分かりやすく顔を赤らめ動揺するスカーレットだったが、
「アイツ、キットオマエノコトスキ、ワタシソウオモウ」
このパンチラインが決め手となって、彼女もトラビスに会うことを了承してくれる。
そして、そのいい知らせを手土産にと、再びダグアウトシティのバディムを訪ねたのだが…。