ラストサムライは日本文化への愛を感じる映画

私が見たハリウッド映画の中で、ラストサムライ最も日本文化に対して敬意を感じる作品のひとつである。


多くの外国映画が、日本文化を表現するためにサムライや日本刀、ゲイシャ、着物など見た目にインパクトの大きい題材をいわば”飛び道具”として使用している。

しかし、登場人物が日本刀を振り回すだけ、女性が芸者の格好をして登場するだけの映画というのは見ていてあまり気持ちのいいものではない。

そのような作品を目にする度に、
外国人の日本への理解は所詮その程度のものなのかとガッカリしてしまう。

中には、例えば、同じアジア人というだけで中国系アメリカ人が日本人役を演じていたり、中には女子高生が日本刀を振り回す様なトンデモ(?)作品まである。
まあ、あえてパロディやギャグとして受けを狙っているというのなら特に否定することもないのだが…。

その中にあって、ラストサムライは、そういった文化の外側だけでなく、武士道に代表されるようなサムライの持つ深い精神性まで描き出そうと試みた意欲作である。

日本人として恥ずかしい話だが、正直、私自身も、武士道の何たるかをそこまで理解しているわけではない。

ただ、「忠義を重んじ、誠実であることを重んじ、自分を律し、家族を大切にし」といった精神性にこそその本質があるということだけは理解しているつもりだ。

この映画の設定の妙は、サムライをテーマにしながらあえてアメリカ人を主役に置いた点だ。
もちろん、アメリカやヨーロッパで映画が違和感なく受け入れられるために、欧米人の視点から日本文化を眺める必要があったのだろうが、それが結果的に、日本人にとっても、日本の精神文化の素晴らしさを再発見するという面白い効果を生んでいる。

トム・クルーズ演じるネイサン・オールグレンは、

数々の戦争を勝利に導いてきたアメリカの英雄である。
そのモデルとなったのは、江戸幕府のフランス軍事顧問団として来日し、榎本武揚率いる旧幕府軍に参加して箱館戦争(戊辰戦争(1868年 – 1869年))を戦ったジュール・ブリュネという人物だそうだ。

英雄視される一方で、彼は、無抵抗な原住民たちを野蛮人と決めつけ、一方的に命を奪ってきた戦争と自分のあり方に疑問をもち、戦場でのトラウマによって夜な夜な悪夢にうなされている。

そのため、酒浸りの日々を送る彼の元に、一つの依頼が舞い込んでくる。
それは、明治政府からの要請で、軍事の専門家として日本の軍隊に戦い方を一から指南してほしいというものだった。

特に興味が惹かれたわけでもないが、報酬もはずみ特に断る理由もない。
そして、彼は船で日本へと向かい、徴兵された素人の農民たちを相手に一から戦い方を教えていく。

そんな中、彼のもとに、サムライたちが鉄道を破壊したという知らせが届く。
それは、明治政府が推し進める急速な近代化(西欧化)に対して不満をもつ士族たちの起こした反乱だった。

急遽、その鎮圧を命じられたオールグレンだが、急ごしらえで素人に毛の生えた程度の兵たちでは、鍛え上げられたサムライたちに太刀打ちできるはずもなく、兵士たちは敗走、彼自身も、サムライたちの領袖である勝本(渡辺謙)によってとらえられてしまう。

当然、死を覚悟したオールグレンだったが、勝本は、彼を殺さず、自らが住まうサムライの集落へと彼を連れ帰り、そこで妹のタカ(小雪)に介抱をさせる。

その後、オールグレンは、サムライとの戦いで自らが命を奪ったサムライの中に、彼女の夫がいたことを知る。
そのことに自責の念を抱きながらも、うまく伝えることができず、もどかしさを感じながらも、彼は村での生活の中でサムライたちのあり方に触れ、それにより徐々に心の平安を取り戻していく。

自らを律し、自らのすべきことに全力で取り組み、信じることのために命をかけて戦い、その結果美しく散ることもまた、運命として静かに受け入れる。

勝本との対話や、タカとその子供たちとの触れ合い、またサムライたちと剣の稽古を通して、オールグレンはサムライの生き方に神聖なものを感じるようになり、徐々に自らも心を開いていく。

そして、やがては、サムライの一員として政府軍に一矢報いる決断をすることになる。
最後の戦いにおもむく前、オールグレンは、つたない日本語でタカに夫の命を奪ってすまなかったと伝える。

オールグレンの誠実な人柄に触れたタカは、「夫も、あなたも、みずからすべきことをしたのだ」と彼をゆるす決断を下す。

そして、「あなたにこれを着ていただきたいのです。」
と、かつて夫が着ていた甲冑を託したのだった。

この映画の中で、特に私が好きなシーンがある。
オールグレンと無口な老サムライが共に過ごすシーンだ。

オールグレンは、気さくに挨拶するが、老サムライは一切言葉を発しない。
いかにも、実直で不器用な男といった雰囲気である。

名前すら明かさない老サムライに業を煮やしたのか、オールグレンは彼に勝手に”ボブ”という名をつけてしまう。

そんな彼が、映画のクライマックスとなる政府軍と侍の一団との戦のシーンで一言だけ発した言葉が

「オールグレンさん!」
それは敵の銃弾からオールグレンを守るため自ら盾となって彼の前に飛び出したときとっさに発した最初で最後の言葉だった。

劇中、最後まで名を明かすことが無かったためボブということにするが、
この無口な老サムライこそ、この作品のなかで最も武士道を体現していた一人ではないかと思う。

調べてみると、ボブを演じた福本清三さんは、日本最高の斬られ役として50年間ものキャリアを重ねてこられた方だそうである。

だからこそ、あえて多くを語らなかったのか。
だとしたら、何ともニクい配役、そして演出である。
武士道とはまた散り際の美学でもある。

勝本は、自らの侍としての生きざまを桜にたとえて歌に詠んだ。

負け戦と分かっていても闘う。死ぬと分かっていても信念を貫くために戦場へと向かう。
人間は誰しもいずれ死を迎える。

そして、人生が死をもって総括されるのならば、己が生きざまを最後まで貫いた誇りをもって殉じたい。

「すべてパーフェクトだ」

そう言い残しこと切れた勝本と、その死に様に対し、跪き頭を垂れて敬意を表した政府軍の軍人たちを描いたワンシーンは、武士道精神の美しさを見事なまでに表現している。

ラスト サムライ 特別版 〈2枚組〉 [DVD] -
ラスト サムライ 特別版 〈2枚組〉 [DVD] –