やる気スイッチをオフってみたら~後編~

メンタル


うつ病とストレスは深く関係しているという。

うつ病の主な原因は日常的にストレスにさらされることで、うつ病の患者の血液を検査すると、強いストレスを感じた際に分泌されるストレスホルモンが通常の2倍の量にのぼるそうだ。

やる気が無気力を生むことも

うつ病とストレスの関係を調べた実験がある。

水槽に小魚を入れ、そこに捕食者である大型の魚も一緒に投入する。
実験開始当初、小魚は食べられまいと全力で逃げ回っていた。だが、やがて、あきらめたように水槽の底でじっとして動かなかうなってしまった。小魚は昼夜問わず常にストレスを感じる環境に置かれた結果、ごく短期間でうつ病になってしまったのだ。

うつ病は、ある意味では究極の無気力状態ともいえる。
脳が自分の体を守るために自らを強制的に”ゼツ”の状態にしてしまうのだ(元ネタがわからない方は気にしないでください)。

やる気を出すと成功しにくいわけ

 

よく、成功している人は、人の3倍努力しているといわれる。

努力と聞くと、いかにも歯を食いしばって苦しみに耐えているかのようなイメージを持たれることも多い。

確かに、ある分野で成功している人は、才能はもちろん、他の人から見たら明らかに並々ならぬ努力をしているように見える

いかにも、毎日やる気スイッチを押しまくっているように見える

この“見える”という点がポイントだ。
例えば、絵を描くことが大好きな子供と嫌いな子供がいたと想像してほしい。

 

絵を描くのが好きな子供は、何も言われなくてもクレヨンを手に取り、何時間も画用紙に絵を描き続けるだろう。

じゃあ、そうすることにやる気が必要だろうか?
その子は、絵を描く前に「やるぞ!」と気合を入れただろうか?

おそらく、どちらも答えは「NO」である。

 

その子は、絵を描くことが楽しいから夢中になって描いているのであって、誰かにやれといわれてやっているのではない。

好きだから、気づいたら数時間が経っていた…おそらく本人はそんな感覚だろう。

一方で、絵を描くことに興味のない子供が、
まったく同じことをやらなければならないとしたらどうだろう。

 

おそらく、5分でさえ苦痛に感じるのではないだろうか。
ましてや、とてもじゃないが数時間もじっと机に向かってなどいられない。

もし、やり遂げようとすれば
それはもうとんでもない”やる気”を発揮しなければならないはずだ。

そして、それはとても強いストレスを感じる時間でもあるだろう。

ストレスに耐えながら、嫌いなことを我慢してやり遂げることを努力と呼ぶのなら、後の子は間違いなく努力している。

では、この二人の子供が先天的に同じ程度の絵の才能を持っていたとしたら、果たしてどちらが絵描きとして成功する可能性が高いだろうか。

子供の未来を賭けの対象にするのは不謹慎かもしれないが、私ならば、間違いなく絵の好きな子供の成功に賭ける。当たり前のことだが、一流の絵描きになるためには、膨大な量の絵を描き続けなければならない。

その圧倒的なまでの鍛錬を、前者は楽しみながら苦も無く行うことができる一方で、
後者は、苦痛に顔をゆがめながら、なんとかやる気を振り絞ってキャンバスに向かわなければならない。

さらに、絵が好きな子どもは、もっとうまくなりたいと創意工夫を怠らないだろう。
そしていろいろな画家の作品にも触れ貪欲に技法を学んでいくことだろう。

対して、絵が嫌いな子供は、とても前向きに上達に向けて工夫する気になどなれないかもしれない。むしろ何とかうまくサボる方法はないかと、そんなことにばかり知恵を使うことになる可能性が高い。

これだけ見ても、両者の上達のスピードに圧倒的な差が生じるのは明らかである。

 

自分にかかわりのない分野で圧倒的なレベルに到達した人間を前にするとき、人はその背後に想像を絶するような修練や厳しい鍛錬を想像する。そしてそれらを辛いものとして捉えがちである。

なぜならば、自分がその鍛錬や修練を苦も無く行っている姿など想像することができないからだ。

だから、一流と呼ばれる人を前にして、きっと自分なら根を上げてしまったであろうところから、さらにもう1歩2歩と坂を上るように前に進み続けた超人的な根性や意志力の持ち主なのだと錯覚してしまう。

もちろん、想像した通り、その人は厳しい訓練を耐え抜いてきたのかもしれない。

だが、そうではなくて、彼(彼女)は、それをまるで子供のように楽しんでいただけかもしれない。

好きなことをとことんまで追求していったら、いつの間にか誰よりもそれがうまくなっていた。そして、なぜか人はその過程を努力と呼んで称賛してくれるようになった。

なぜだろう?自分は好きなことを続けていただけなのに。
そんな風にちょっと申し訳なくさえ思っているかもしれない。ただそれを口には出さないだけで。

 

ある分野で成功している人は、自分の”しごと”が好きであるに違いない。

仕事でも趣味でも、それが嫌いであるにも関わらず、成功を収めているという人を私は見たことが無い。成功者は、すべからく自分のしていることを愛している。

まさに順風満帆で進んでいるようなものだ。
“好き”という偉大な自己推進力により自然とモチベーションも高まり、グングンと前に進んでいく。

理想はやる気のない生活

 

いろいろ書いてきたけれど、結局、これに尽きるのではないかと思う。
ただ、文字にすると、いかにも怠惰な暮らしぶりを推奨しているかのようで思わず笑ってしまう。

だけど、ここまでの話の趣旨を理解してくれた方にはある程度納得していただけるのではないだろうか。

やる気の要らない生活とは、自分にとって興味関心があり、好きだと思えることを生活の中に多く取り入れてストレス少なに暮らしていく生活のこと。

ストレスは往々にして、嫌いなことを嫌々やっているときに感じるものなのだから、
ストレスが少ないのは、やる気のない人間の特権と言えるかもしれない。

それでは、また次回。