人はどこまでもコミュニケーションを欲するものなのか。
キャストアウェイという映画を見て、ふとそんなことを感じる。
トムハンクスが演じる主人公チャックは、もともとはエリートサラリーマンであったが、事故で飛行機が海に墜落し、命からがら無人島へと漂着する。
そこへは、飛行機に積まれていた輸送用の段ボールもいくつか流れ着いていた。
チャックは、その箱の一つからバレーボールをみつける。そしてそのボールにケガをした自分の血で顔を描き”ウィルソン”と名付けて、以後話し相手にする。
相手は人間ではない。動物でさえない。ただのボールだ。
自ら動くことも無い。当然うなづきもしない。チャックは、そんなボールに向かって淡々と話しかけ続ける。
「眠れないのかい?…僕もだ。」
「不安かい?…僕もだ。」
物言わぬボールと親しげに話しをするチャック。
一瞬、私だけウィルソンの言葉が聞こえていないのではないかというくらいその会話のリズムは自然で、まるで気心の知れた友人と話しているかのようだ。
無人島での孤独な時間は、人にただの独白とも人間との会話とも違う独自のコミュニケーションの術を身に着けさせるものなのだろうか。
物語の終盤、イカダでの脱出を試みるチャック。
だが、途中で嵐に遭い、イカダからウィルソンが落ちて流されてしまう。
疲労困ぱいの中、命の危険を冒してでもボールを拾いに海へと飛び込むチャック。
もう、彼にとってウィルソンは、”ただのボールではない”のだと強く印象付けるシーンだった。
だが結局、波に流されたウィルソンを救出することはできず、
何度も
「許してくれ…」と繰り返しイカダへと戻っていくチャック。
そうして、何とかイカダへと戻ると、その上へ倒れこみ声を上げて泣いた。
その後、チャックは通りかかったタンカーに無事救助されることとなった。
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この映画には、いくつものテーマがあるように思う。
それは、もしかしたら、利便性を追求し、時間に追われる現代人への皮肉なのかもしれないし(実際、ビジネスマンの頃のチャックは、1分1秒を惜しめ!と部下に檄を飛ばすようなタイプだった。)
必要なものは、それほど多くないということを言いたかったのかもしれない。
しかし、私が特に強く感じたのは、どんな状況になっても人は最後まで話し相手が欲しいのだということだった。
もっというと、人は最後まで自分の話を聞いてくれる相手が欲しいのだ。
批判もしない。話を途中で遮りもしない。
そういう意味で、ウィルソンは最高の聞き役だった。
ボールを聞き手に見立てて友情を育む…字面だけでみるといかにもシュールだが、自分もあの孤島に身を置いたと想像したならば、
俺の話を聞いてくれ!
存在を認めてくれ!
というチャックの切なる希求が痛いほどに伝わってくる。